兄のトランク
宮沢清六
「グスコーブドリの伝記」を書き直すのをそばで見ていたが、病床でも大きな綺麗な字でどんどん書きながら、ちょっと笑ったり、冗談を言ったりしていた。
ブドリがクーボー博士から質問されるところで、「工場の煙突から出る煙にはどういう種類があるか」というのがあるが、「ここを別のものに変えて見るか。」と言うので、「こんな素晴らしいところを投げて別のものにするなどということはないでしょう。」と言うと、「ここはそんなにいいのかなあ。ではこいつは助けて置くか……。」などと、ほんとうにうれしそうな顔をしたものだ。
(兄賢治の生涯)