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  • 執筆者の写真higouti

仕事の絵、自分の絵

更新日:2021年9月19日




「放浪画家」として世間で騒がれたとき、すでに山下清の放浪癖は止んでいた。

また旅に出たいとは思ったかも知れないけれど、「仕事」がそうはさせなかった。 展覧会は全国を回り、次々と依頼が舞い込んだ。 もうそうなると、「描きたい」ではなく、「描かせられる」になる。


清はいろいろな「仕事」をこなした。 頼まれるまま描いた。 自衛隊の一日隊長のようなものも引き受け、制服を着せられ、基地をスケッチさせられた。

ヨーロッパにも行った。 ルーブルの名画を見てあくびして、エッフェル塔を描いた。

便利なフェルトペン、マジックを使って描いた。


そんな清にインタビュアーが「やはり絵はお好きなんですか」と質問した。 すると清はこう答えたという。 「仕事だからな」


イラストレーターの友人知人が、やはり「仕事の絵」と言ったりする。 「あれは仕事の絵だから」と、言い訳のように話すのを聞くことがある。 「仕事の絵」の反対は「自分の絵」ということになるだろうか。


山下清でさえ仕事の絵を描いていた。 もう自分の好きなように、ふらり旅に出て、見たもの聞いたのを描く生活はさせてはもらえなかった。


それはよかったんだろうか。 よくなかったんだろうか。 そんなことを、ふと。

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