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執筆者の写真higouti

新版 二笑亭綺譚



去年、式場隆三郎の『二笑亭綺譚』の新版が出た。 そのうち買えばいいやと思っていたら、いつの間にか入手困難になっていた。 出版元も在庫切れ。 Amazonでは一時3倍の値が付いていたが、今では取り扱いなし。古本の出品もない。


「二笑亭」とは、昭和初期に建てられた個人住宅で、主人自ら大工に指示して作らせた世にも奇ッ怪な造りの家で、気味悪がる家族は揃って別居し、ひとり残された主人は最後は発狂したという。


変な硝子窓、入りにくい入口、妙な意匠の壁、物が置けない傾いた飾り棚、奥行きのない押し入れ、昇ることができない梯子、変な造りの風呂…

壁の節穴のひとつひとつには色硝子が嵌め込んであったという。


主人は入院し、二笑亭は取り壊されることになったが、並々ならぬ興味を抱いた式場隆三郎は建築家谷口吉郎を伴い内部調査を行った。 谷口吉郎は空き家となってなお感じる気配に圧倒され、体調を崩しかけたという。


昭和14年、調査をまとめた式場隆三郎は『二笑亭綺譚』を著す。 あらゆる体裁で版を重ね、最晩年にも新装改訂版を出版した。 式場隆三郎はある意味、二笑亭に取り憑かれていたのかも知れない。


その『二笑亭綺譚』の新版、手に入らないとなると俄然欲しくなる。 1993年のちくま文庫版でさえ高値がついている。

今回の新版は、新たに発見された木村荘八の挿絵もカラーで掲載されて3000円は良心的といえる。


しかし、どこにもない。 あらゆる書店、古本屋検索、ヤフオク、メルカリ、その他諸々あたったが、ない。

2020年3月に出版された本が、なぜ一年そこらで入手困難になっているのか。 何か問題があって出版差し止めになったのだろうか… 内容が内容なだけに、何か薄気味悪いものがあった。 自分も二笑亭に取り憑かれたのだろうか…

謎は深まるばかり。。

出版社に問い合わせてみた。 すると、確かに初版は品切れてしまったが、再販の計画があるとのお返事をいただいた。 しかし、いつになるかは未定とのこと。

そして、もしかしたら「式場病院」のほうに在庫があるかも知れない、との助言をいただいた。

「式場病院」とは式場隆三郎が設立した精神科の病院だ。

確かに式場病院のホームページを見ると『二笑亭綺譚』のページがあるではないか。 「外来受付でもお買い求めいただけます」とあった。

市川の式場病院へ行ってみるか。 柴又が近いから、鰻と草団子でも食いがてら…

いや、たかが一冊の本を買いに医療現場に足を踏み入れるなんて、何かに反しているのではないか。 何に反しているのかは分からないけれど、時世が時世なだけに憚られる。


駄目元で式場病院に電話で問い合わせてみた。 すると、担当の方が実に丁寧に対応してくださった。 そして、在庫はございますよ〜、お送りしますよ〜、とのこと。 なんと…!


聞けば、600部の出版だったとのこと。 それをある程度の部数を式場病院が扱うことになったのだが、医療法人ゆえ派手な宣伝も出来ず、式場病院で購入出来ることをご存知ない方が多いのでは、とのことだった。


よかった。 とにかく一冊お願いした。 多分明日届く。

もしご希望の方は式場病院までどうぞ。 (二笑亭のとりこになっても責任は負いかねます)

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