エミール・シャンボンの画集のなかに白熊がいた。 寝苦しさに白熊を夢想しているのだろうか。
置時計の針は9時なのか、鏡のなかの3時なのか。 白熊も寝苦しそうである。
中原中也は白熊の詩を書いた。
また今年(こんねん)も夏が来て、 夜は、蒸気で出来た白熊が、 沼をわたってやってくる。 (初夏の夜)
それから「女」を書いた。
ああ 疲れた胸の裡(うち)を 桜色の 女が通る 女が通る (中略) 疲れた胸の裡を 花弁が通る ときどき銅鑼(ごんぐ)が着物に触れて 靄はきれいだけれども、暑い! (夏の夜)
シャンボンの絵は助平である。 それで何も不足はない。
トラムに乗り合わせた女性をスケッチする情熱を、ぼくも欲しいと思う。
それにしても蒸し暑い。 さっき大雨が降った。
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